コミュシル

聞かない力

聞かない力

先日、エッセイストの阿川佐和子さんの記事を読む機会があった。
最近結婚したばかりで「熟年結婚」といわれているそうだが、当のご本人は例によって阿川さんらしいウィットに富んだ表現でお相手との新婚生活についてコメントしていた。

夕方になり、「もう5時ね」という阿川さんに対し、お相手は自分の携帯電話が見当たらず、それを尋ねる言葉が返ってきたという。
この話は、一見話の全く嚙み合わない夫婦の何気ない日常の一コマなのだが、阿川さんはその嚙み合わない会話を、「最もなごむ」と評している。
こうした「聞かない力」によって、60歳を過ぎた自分たちが、心地よく夫婦生活を営んでいるのだと、さらりと告白していた。

コミュニケーションは、傾聴とまでは言わずとも、相手の話をまずきちんと聴くことが前提だが、このお二人がそうしていらっしゃらないのは、おそらく「話す・聴く」を超越した次の次元で、何か二人だけで共有できる確かなものを既に持っているからなのだろう。だから、会話のズレさえ楽しめる。
そうでなければ、的外れな言葉を返してくるパートナーに耐えられるはずがない。
「あなたは私のこと、何もわかってないじゃない!」が始まってしまうのである。

なごむか、不快に思うか。
これは、夫婦のみならず人間関係の大きな分かれ道だ。

コミュニケーションの語源を調べると、ラテン語の「Communus(コミュナス)」という言葉が出てくる。この元々の意味は「共有(シェア)」である。
相手に自分の考えや思いを話す。
相手からの話も同様に聞く。
でも、それだけではお互いの考えや思いを共有できたとは言えない。
伝えたいことを相手まで届け、相手も同じようにイメージし、そうだと思えた時、初めて共有できたと言える。

世の中に一方的なコミュニケーションが多いのは、相手と共有できたかをきちんと確かめ合っていないからかもしれない。致命的にお互いの思いがずれる前に、今一度相手と何を共有できているのか立ち止まって考えてみるのも必要かもしれない。

それにしても、以前ご自身が出版されたベストセラー「聞く力」をこれまたさらりと流して、「聞かない力」で夫婦生活を円満に送っているというだから、常に進歩している現在進行形のような人である。

さすがにもう、人生の先輩!という感嘆しか出てこない。
それに比べて、最近も夫に話を聞き流されてイラついてしまった私は、まだまだ若輩者である。
「聞かない力」で和む日々は、まだまだ遠い。

ABOUT ME
おおつかけいこ
教師歴10年の経験をもつ教育者。ライティングの「ものかき」でマネージャーを務めるほか幼児教室も主宰
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