団地
UR賃貸住宅「芝園団地」に九龍城砦が再現されつつある。そんな話を聞いた。あの伝説のスラム街、アジアンカオスの象徴である九龍城砦と埼玉がまったく結びつかない。もちろん話半分で聞きながら冗談だと思っていた。
そもそもこの団地は大友克洋の「童夢」で超能力者たちが縦横無尽に戦う舞台となったことで有名なのだが、マンガに描かれているスケールそのままでかなり巨大。そして城壁のように500mに渡り連なってる一角があり、浦和を経由して赤羽から都内に入るルートの電車からであれば、なぜここにウォールマリアが?と違和感をおぼえるほど異様な風景が車窓に広がる。
そんなマンモス団地がなぜ九龍城砦と重なるのか気になって調べてみると驚かされた。たしかに「公団」でありながらも、ある時期から外国人の入居者が増加し、今では芝園団地2500世帯のうち住人のほぼ半数が外国人で占められていて、そのほとんどが中国系とのこと。どちらかといえば華人ニューカマーズで若い世代が入居しているらしく、それに比べて日本人は高齢者が多いそうだ。
団地の中の日系というマイノリティ
URに外国人。もちろんすべてではないはずだが、入居する際の条件や審査のハードルが高くないらしく、ある一定の所得基準を満たせば入れるタイプのURがあり、芝園団地もそれに該当するので外国人が続々と集まってきただけなのだろうけれど、おそらく今後、日本各地のURで同じようなケースが増えていくように思われる。それならこれが日本における多文化共生の一つの最先端なのだ。そしてここには居住空間をベースにした外国人コミュニティが運命的に形成されていくはずだ。今までの日本社会における団地のイメージが転換されるような状況が着々と進行していくと考えられる。
当然、課題は山積みだろうけれど、個人的にはそこにどんな文化ができていくのか非常に興味深い。隣接している中学校にしても、いつか日本にしかルーツのない日本人の生徒はマイノリティになるわけだ。それを想像してみるだけで不思議な気持ちになる。
団地のなかをふらふらと歩いてみる。九龍城砦のイメージが前のめりになっていたが、もちろん無法地帯という印象はまったくない。URが現代の日本に飛び地したアジアンカオスではなく、中国の異邦人といわれる客家が作り上げた居住空間「客家土楼」のような、独自の多文化共生のスタイルを形成してくれると面白い。
